弁理士の仕事とは?
一言でいえば、産業財産(特許や商標)に関する専門家・法律家であり、クライアントの代わりに知的財産の仕事を行ったり、コンサルタントを行う人です。具体的な仕事内容は大きく分けて、特許事務所内弁理士と企業内弁理士とに分かれます。
ここでは、特許事務所弁理士について説明します。
特許事務所弁理士は、クライアント(多くは企業、ごくたまに個人発明家や主婦など)からお仕事(依頼)をもらいます。仕事はだいたい以下のとおりです。
- ①特許庁に提出する書類の作成
- ②知的財産に関する相談・コンサルティング
- ③契約交渉
- ④訴訟(審決取消訴訟、侵害訴訟)
- ⑤紛争の仲裁(ADR)
- ⑥税関での差し押さえ
このうち、ほとんどの弁理士については仕事の9割5分以上が①②です。
②もほとんどが①に関する相談です。
①について、どんなものか具体的に説明していきたいと思います。
特許庁に提出する書類の作成といっても多岐にわたります。また、特許庁といっても国内の特許庁(日本特許庁)と、外国(アメリカ、ヨーロッパ、中国、台湾など)の特許庁などたくさんあります。メインとなる書類は下記のものがあります。
国内 | 日本特許庁に提出する書類 |
特許出願書類 (いわゆる特許明 細書) |
クライアントから特許出願依頼された発明(技術的アイデア)を 法律の形式に適合するように詳細に説明した書類。 数ページで済む場合から100ページを超える大作になるものまで 発明によってさまざまです。 ①特許願、②特許請求の範囲、③明細書、④図面、⑤要約書の5つの書類から構成されています。 明細書の書き方一つで特許庁の審査に不適合(拒絶査定)に なったり、特許権を取得できなかったりするため高度なスキルや 経験を要します。 一人前に特許明細書を書けるようになるには3~5年はかかると言われています。一人前の弁理士が要する1件当たりの明細書作成時間は平均1~3日。 |
意匠登録出願書類 | 意匠(商品のデザイン)を法律の形式に適合するように記載した書面です。特許明細書とは違い、決まったフォーマットの書類に図面を貼り付ける作業だけですので作業時間自体はかかりません。 図面の作成に時間がかかる場合があります。 |
商標出願書類 | 商標(商品や会社の名前・マーク)を、法律の形式に適合するように記載した書面です。特許明細書とは違い、決まったフォーマットの書類に商標を貼り付ける作業だけですので、作業時間自体はかかりません。クライアントの商売の形態をきちんと把握した上で、クライアントの利益になる法的なアドバイスができるか否かが重要です。 |
中間書類(意見書・補正書) | 特許庁に提出した特許出願書類(意匠登録出願や商標出願書類の場合も同様)について、特許庁から審査に不適合である(特許性がない)から出願を拒絶するとの拒絶理由が通知される事が頻繁にあります。この拒絶理由に対して特許明細書を補正(修正)したり、意見(反論、弁明)したりして審査に適合させる必要があります。 このときに特許庁に提出する書類が補正書や意見書です。 通常この書類の作成に当たってクライアントに、専門的見地から特許庁の拒絶理由の説明やその対処方法の提案(コメント)をし、クライアントと相談します。そしてそのクライアントの回答をもって、補正書や意見書を作成して特許庁に提出します。 すべてを通すと1日近くはかかる作業です。 |
鑑定 | 特許有効性鑑定、侵害鑑定などがあります。特許有効性鑑定は、クライアントのライバル会社の特許が有効であるのか無効であるのかを判断します。侵害鑑定は、クライアントのライバル会社の特許をクライアントが使用しているかを判断します。 この判断一つでクライアントの商品の製造を止めるようなことにもつながりかねない責任感がある仕事です。 |
特許明細書 (英文) |
特許明細書の英訳文です。 特許明細書を英語にして外国の弁理士に送付します。英訳作業自体は専門の翻訳者さんに依頼します。 弁理士の仕事は、翻訳者が仕上げた英訳が技術的または法律的な観点から正しく翻訳されているかどうかをチェックします。 |
中間書類(外国、英文) | ①海外に出願した外国出願について、海外の特許庁から特許性がないとの拒絶理由が通知されますので(もちろん海外の言語です)、外国の弁理士からその外国の拒絶理由を日本の弁理士に送付してきます。 日本の弁理士はその拒絶理由に対して、クライアントに特許庁の拒絶理由の説明やその対処方法の提案(いわゆるコメントの作成)を行います。そしてそのクライアントからの返答を外国の代理人に連絡します。(流れとしては外国の特許庁→外国の弁理士→日本の弁理士→クライアント→日本の弁理士→外国の弁理士→外国の特許庁 といった形です) ②また、海外のクライアントが日本出願する場合もあります。その場合には日本特許庁からの拒絶理由や、その対象方法を英文にして外国のクライアントや外国代理人に送付します。 (流れとしては日本特許庁→日本の弁理士→(外国の弁理士)→外国のクライアント→(外国の弁理士→)日本の弁理士→日本特許庁といった形です) 日本の弁理士は、外国の弁理士やクライアントとのやり取りが頻繁にありますので英語能力が問われます。 |
この中でメインは、
(1)特許出願書類(いわゆる特許明細書)と、
(2)中間書類です。
弁理士の作業時間で最も多いのは、(1)特許出願書類(特許明細書)の作成です。
仕事の流れとしては、
①クライアント(企業の知財部の方、研究者)と打ち合わせ(発明の内容の把握、求める権利範囲の確定)
②パソコンに向かって特許明細書の作成
③作成した特許明細書をクライアントに送付(クライアントのチェック・回答) ④クライアントの回答に基づいて、特許明細書の修正・送付
⑤<以下、クライアントのチェックとその修正の繰り返し> (クライアントからOKの指示)
⑥日本特許庁にオンライン出願
パソコンに向かって文章を作成しまくるというのが実態です。忙しい先生になれば、クライアントの電話対応・打ち合わせ、事務所員への相談・指導などが多くなり、パソコンに向かう時間の割合は少なくなります。しかし、やはりメインはキーボードを叩くことです。特に新人のうちは、黙々とパソコンと会話していくことになります。ただし単純作業ではなく、常に脳みそを働かす知的な作業ですので意外にあっという間に時間が過ぎます。気づいたら昼休み!夕方!ということもざらです。とにかく時間が過ぎるのが早く感じます。
初めのうちは事務所にこもりがちで、デスクワークばかりです。しかし、一人前になれば、クライアントへの打ち合わせが多くなりクライアントも弁理士のアドバイスを真摯に聞いてくれますので、仕事が楽しくなります。