事務所入所するにあたって心がけること

(1)はじめの2~3年は修行期間と考えてください。

特許明細書を書く上で、法律の知識技術の知識日本語の語彙力各特許事務所や指導上司のスタイルなど色々覚えることがあります。また、特許明細書は1件1件同じものではありません。

一般的に、特定の分野に限って上司のチェックが抜けるまでに2~3年はかかります。(複数の分野などを完全にこなせたり、さらには高度な法律判断までできるには10年はかかります)
また、分からないことだらけで、特に初めの一年は何を書いても修正・指導されます。

この仕事は専門職であり、職人技でもありますので、時間をかけて師匠から技(明細書作成スキル)を習得するものだと割り切ってください。企業みたいに、入社一年目でも出来るような仕事は、弁理士や特許技術者にありません
そんな仕事であれば、企業がわざわざ特許事務所に高いお金を払って依頼するわけがありません。

とりあえずまずは、2~3年は我慢してください。2~3年すれば徐々に全体がわかってきますし、上司チェックが少なくなってきます。また、クライアントの信用も獲得できるようになってきます。その状況になれば、仕事は格段に楽しくなってきます。

(2)指導員(上司)への反論は、心の中でお願いします。

上述しました通り、特に初めの一年は、指導員からの指導・説教ばっかりです。指導員にも当たり外れはあります。しかし、こればっかりは仕方がありません。運が大きいです。

そして、指導には当然腹が立つこともあります。例えば、昨日言ったことを今日は手のひらを返すように反対のことを言ったり、その場で思いついたとんちんかんなことを言ってきたりします。本当に腹が立ちます! しかし、口答えは当たり前ですが、反論も絶対にしてはいけません。するのであれば、心の中でしてください。

相手が心の広い指導員なら、(こちらが正論であれば)その反論を聞き入れてくれますが、そんな心の広い方ばかりではありません。むしろ、先生と呼ばれる職業柄か、目下の人に否定されるとむっとする人の方が多いかもしれません。反論しても、別の角度からぐぅの音も出ないほど反論され返されます。

指導員は、よほど大きな事務所でない限り固定されてしまいます。一度嫌われると大変です。どんなに嫌なことやとんちんかんなことを言われても、元気に「ハイッ」と答えて、素直に従っていた方が何倍も得策です。指導員に気に入られると、指導員が上機嫌で優しく指導してくれますので、指導のストレスもずいぶん減ります。ある程度仕事が出来るようになり、指導員に仕事ぶりを認められるようになったという感触を抱いてから反論し出すことをお薦めします。

(3)指導員(上司)の書く事をコピーするというスタイルをとってください。

この仕事は、特許明細書の文章の書き方のバラエティーをどれだけ数多く吸収できるかというのが実力に直結します。そして、それは経験によって得られます。指導員は当然経験が長いですので、その引き出しはいっぱいあります。それを真似してあますところなく吸収してください。

(4)給料も一人前になるまでは我慢してください。

事務所に入所する際の重要な指標の一つが給料です。 みなさんの多く(未経験者の場合)は、入所年時における給料の50万や100万の差で悩むことがあると思います。例えば、A事務所は未経験の初年度が400万、B事務所は未経験の初年度450万の場合、多くの人はB事務所の方に大きな魅力を感じるはずです。 また、入所時の面接の際に給料について少しでも高くするために交渉することもあると思いますし、入所後は残業代をきっちりもらおうとすることもあると思います。

しかし、一人前になるまでは給料に執着しないでください。給料を第一優先にして事務所を決定したり、給料交渉を頑張ったり、残業代をがめつくもらおうとすると、かえって損することになる場合があります。重要なのは、給料は所長の一存で決まることです。
一般的に、一人前になるまでは給料制でちびちびと昇給します。そして一人前になり、売上をたくさん上げるようになると大幅に昇給します。所長に気に入られ、「この弁理士はこの事務所にずっといて欲しい」と思われると、当然、その分昇給する金額は増えます。また、「この弁理士は安月給やけど今まで良く働いてくれた」と思う人にも昇給させるでしょう。
逆に、当初からこの弁理士にはいっぱい金を払ってきた(実際はそこまで給料は多くないが)という印象を与えてしまうと、今までのバランスを取って昇給分は少なくなる可能性があります。一人前になって、戦力とみなされたときの昇給は大きいものですので、50万や100万の差はすぐにとり返せます。

まずは、一人前になることに専念してください。 一人前になって、所長に認められてください。一人前になるに近づいて所長の態度も変わってきます。やさしくなったり待遇が良くなってきます。そのときがチャンスです。そのチャンスのときに、所長へ給料についての交渉をきちんとしてください。ダメなら出ていけばよいのです。真の実力が付いていれば良い条件で雇ってくれる事務所はいくらでもあります。

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